iOSDC Japan 2023 初登壇までの軌跡

はじめに



人は、自らの道を探る旅人。時には社会や環境によって役割が割り当てられ、その枠内で最良を尽くすことが求められる。エンジニアであれば、コードを紡ぎ、問題を解決する技術者としての役割。DevRelであれば、コミュニケーションとブリッジを築く架け橋の役割。これらの役割に忠実に生きることも、もちろんのこと、価値がある。

しかし、それだけではない。役割の枠を超え、自らの可能性に挑むとき、真の価値が生まれる。想像を超えた発見があり、未知の扉が開かれる。そこには、新しい景色、新しい価値観、そして新しい自分自身が待っている。役割以上のことを成し遂げることは、ただの成功ではない。それは、自らの限界を打破する冒険であり、真の成長への第一歩である。

そう、人はその人に合った役割や求められる。だが、その役割を超え、未知の領域へ踏み出す勇気を持つことで、真の価値を手に入れるのだ。適材適所は大切だが、それを超える挑戦もまた、人生の醍醐味である。

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2022年11月の終わり。私はiOSの開発をスタートした。

 iOSDCへの道

一エンジニアの言葉がiOS開発の火花を灯した。

「プロポーザルを促している人自体が提出しないのは、矛盾しているよね。」

....その通り正論だ。役職やポジションが違っても、自らの行動で周りに示すことは、他者の動機付けに繋がると信じている。だが、開発を始める道は確かに時間と労力の坂道である。以前、フロントエンドエンジニアとして地図の開発を手がけていた経験から、新しい技術の習得が要する時間は痛感している。現職、サイドプロジェクト、コミュニティ活動、学業と、余裕を見いだす瞬間は少なかった。

しかし、その状況を言い訳にしてはいけないと感じた。挑戦しないままで「できない」と決めつけたくはない。試してできなければそれでも良い、とは思わなかった。挑戦すれば、その道を最後まで進む覚悟を持つ。その決意を胸に、iOS開発の学びを開始した。

iOS開発のため、まずは関連書籍や公式ドキュメントを丹念に読み込み、必要な知識を身につけた。サンプルアプリを手がけることで、基本的なフレームワークを掴んだ後、目標を自らリリースするアプリの制作へと移行。心から欲しいと感じたバイク管理アプリの構築に挑戦を決意。この開発を元にプロポーザルのネタを探していこうと考えた。

冬休みを迎えると、朝の光から深夜の静寂まで、ひたすら開発に没頭した。この機会を逃すと、日常の多忙さが我を阻むだろうと予感していた。

一度挑戦を決意したなら、最後までその道を進まなければならない。


1ヶ月とちょっとである程度形にすることができたが、12月の終盤はアプリの開発と学業の両立で身を削るような日々を過ごしていた。


確かにアプリのプロトタイプは完成したものの、深い知識としてはまだ掴みきれていなかった。更なる学びが必要だと痛感していた。冬休みの終息とともに日常の忙しさに再び追われる中、開発のペースが鈍ってしまった。

私の永遠の課題は、忙しさが増すと集中力が一点に集まってしまう。

そのまま開発が風化してしまうかと思われた矢先、社内勉強会での発表の機会を得ることとなった。それを契機に、watchOSとMapKitを駆使した地図機能の実装に挑戦し、無事にその成果を披露することができた。


iOSDC Japan 2023 のプロポーザル提出

あれよあれよという間に、iOSDC Japan 2023のプロポーザル提出の時期が到来した。そう、元々の目的はこのプロポーザルを出すためにiOSの開発を始めたことを思い出した。提出しないわけにはいかない。

具体的なネタに迷ったところ、タイミング良くWWDC Extendedのイベントが開催された。


参加していたエンジニアたちに相談しながら、私の提案内容を洗練させた。仲間として意見を交換できる存在、プロポーザルの精度を高めるためにアドバイスしてくれるエンジニアたちの存在は計り知れないものだった。
レビューしてくれたみんなが私の考えに新たな風を吹き込んでくれ、アイディアを豊かにしてくれた。結果として、2本のプロポーザルを無事に提出することができた。

プロポーザルの提出を最初の目標として掲げ、その道を歩んできた。もちろん、アプリのリリースも念頭に(笑)。関わってくれたすべての方々に、深く感謝の意を表したい。






登壇準備

今回、私が選んだ発表のテーマは「watchOSとMapKitを駆使した位置情報収集:バッテリー消費最小化と取得精度向上テクニック」だ。なぜこのテーマか。私が現在開発中のバイク管理アプリで、地図機能の追加を検討した際、iOSとwatchOSの双方で位置情報をどう最適に取得するかという問題に直面したからだ。特にwatchOSの難点は、運転中の充電の制約。長時間のツーリングで位置情報を取得し続けると、帰宅時にはバッテリーが尽きているのではないかという不安を抱えていた。

この問題は、単なる私の悩みだけでなく、多くのアプリ開発者が直面する普遍的な課題だと感じた。そこで、私は積極的にこの課題への解決策を求め、数々の実証実験に挑んできた。

デモアプリの開発、PoCの試行錯誤。私自らが一晩で20km歩き、20kmバイクを駆り、さらに20km車を運転して、位置情報とバッテリー消費のデータを集めた。なぜこんなにも過酷なテストをしたのか。それは、単に知識として伝えるだけではなく、実体験から得た知見を共有したかったからだ。

資料作成の過程は、予想通りの難航だった。仕事や他のイベントが重なる中、夜遅くまでの作業が続き、正直なところ、身体の限界を感じることもあった。

発表は、決して楽なものではない。私が話す言葉一つ一つが、聞き手に何かの気づきや価値をもたらさなければならない。そのための準備や研鑽は、一切手を抜くことができない。その思いを胸に、私は最後の瞬間まで努力を続け、ついにその日を迎えたのだ。

 iOSDC Japan 2023での発表

発表当日、私の心臓は高鳴っていた。前日はほんの数時間しか睡眠をとれず、準備に追われた。受け入れられるのだろうか。そんな不安が心をかき乱していた。

昔、「エンジニアとして向いていない」という言葉を言われ、そのことで悩み抜いた私。そして今はDevRelとして働いている。エンジニアではない私が人前で発表する資格があるのだろうか。過去の経験、これまでの努力、すべてが急に意味を失って見えた。

だが、その時、前日に話してくれた友人の言葉が心に響いた。

「もし君が自信を失ってしまったら、これからの若手エンジニアたちはどう自分を信じて進むべきか迷ってしまうだろう。君がこれまでに努力で築き上げてきたもの、その全てに自信を持つべきだ。君の背景、地図の開発をしていたあの日々、それが今のDevRelとしての君を支えているんだ。君がこれまで歩んできた道は、単なる足跡ではなく、繋がり合う意味ある軌跡なんだ。」

彼の言葉は、私の胸に刻まれた。自分のことを理解し、応援してくれる仲間がいることに気が付いた瞬間、涙がこぼれそうだった。

そんな想いを胸に、舞台への一歩を踏み出した。会場入りしてすぐ、大きなスクリーンに映し出される自分の名前とスライド。あのとき、私の中で何かが変わった。すべての努力が、この瞬間のためだったと感じた。


 

緊張と期待に包まれた会場。マイクを握り、私は話し始めた。言葉ひとつひとつに、私の思いが込められていた。発表中、参加者の反応を見て、心が躍った。自分の経験が、他者の興味を引きつける喜び。それを噛みしめていた。多くの反響と、新しい気づき。これこそが、私が求めていたコミュニケーションだった。

発表が終わり、帰路につく。疲れているはずの身体だが、心は満たされていた。この経験は、私の人生において、特別な一日として刻まれたのだ。



まとめ

この1年は私にとって特別な期間となった。iOS開発の初歩から、国内最大級のカンファレンス「iOSDC Japan 2023」での発表まで、私のキャリアにおける大きな一歩だった。この旅路においては、数え切れないほどの学びや気づきがあった。時には困難に直面しながらも、そのたびに新たな知識や技術の幅が広がっていったのを実感している。

ここに至るまでの道のりにおいて、常に側でサポートしてくれた仲間たち、そしてこのブログを読んで共感や励ましをくれたすべての皆さんに、心からの感謝の気持ちを伝えたい。皆さんの存在なくして、私の今日はあり得なかったと確信しています。

とにかく楽しかった!ありがと!



これからも、iOS開発の道を進む決意は変わりません。未来に何が待ち受けているかは分からないけれど、この先も新しい挑戦とともに、技術の深化を求めて進んでいきたいと思っています。引き続きの応援とサポート、よろしくお願いいたします。


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